5アナログ教材の意義写真3写真4自然界のものには、全て形や大きさ、位置や方向、順序があります。これらが何かということは、実物に手で触れ、動かす体験を通してしか学ぶことができません。文字や数の学習も、着替えや食事などの生活動作ですら、これらの基礎の上に成り立っています。こうしたことからも、年少のうちから実物を使って遊び、触って動かして生じる変化を楽しむ体験を豊富に積んでおく必要があるといえます。アナログ教材においても、プリントなど平面(2次元)の教材と、立体(3次元)の教材との区別があります。写真4の教材などは、プリントでできることをわざわざ立体にする意味は何かという疑問をもつ方もいるかもしれません。しかし、実際に操作してみると、その違いは明らかです。写真3では一度に様々な刺激が目に入ってしまい、どこに注目したらいいかがわかりにくくなっています。写真4には、教師がカードを1つ1つ枠に入れる手続きがあるため、子どもには、各パーツが時間的な段階を踏んで認知されます。まず、枠にカードを置く手の操作により、その場所に的確に視線が向かい、別の枠に注意を移す際も安定した視線の移動が可能です。そのため、自分がしたことが記憶に残りやすく、フィードバックもしやすいといえます。また、1つ1つのパーツ近くにあるネジに輪ゴムをひっかけるしくみになっていて、ゴムを引き延ばすなど若干手間のかかる操作により視線がそこに留まりやすく、パーツに注意を向ける時間が写真3の2次元教材(プリント)よりも長くなります。アナログであれデジタルであれ、興味を引く物がそこにあれば、人と人とのコミュニケーションは成立しやすくなります。物を媒介とした活動で生じる成功体験を人と分かち合うことは子どもの喜びであり、そのことを通して望ましい社会的行動も育っていきます。●まとめ特別支援教育の対象になる子どもたちの目は、刺激に左右されやすく一か所に留まりにくいことがよく知られています。3次元次の教材によりゆっくりした目と手の操作を引き出すことは、より物をしっかりと見ることや物のイメージを形成することに役立っているのです。【文献】APA(2013)DSM-5. Diagnostic and statistical manual of mental disorders (5th ed.). APA, Washigton, D.C.(高橋三郎, 大野裕監訳(2014). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」. 医学書院.)/Bruner, J. S.(1961)The process of Education (鈴木祥蔵・佐藤三郎訳 1963 教育の過程 岩波書店)/立松英子(2020)提言 教材を活用して個に応じた指導をしよう.特別支援教育の実践情報2020年8-9月号(特集工夫いっぱいの教材&ICT で個に応じた指導・支援),pp8-9.明治図書出版/立松英子・齋藤厚子(2021)太田ステージを通した発達支援の展開 -子どもの心の世界がみえる- 学苑社(2021年10月発売)立松英子(2020)教材を活用して個に応じた指導をしよう.特別支援教育の実践情報,,2020年8-9月号pp8-9, 明治図書出版より指文字と数字を線で結ぶ(2次元)指文字と数字をゴムで結ぶ(3次元)●デジタル教材のメリットとデメリット筆者は、デジタル教材が豊かになってきて嬉しい反面、アナログ教材の意義も認識される必要があると考えています。デジタル教材は絵や音声を入れ替えたり、アプリケーションを取り換えたりすることが容易で可変性に富み、操作と結果の因果関係が分かりやすい、画面の光沢が子どもの視線を引きつける、画面に指で描く活動も、ペンをもって紙に描くより負担が少ないなどの利点があります。一方、軽いタッチで結果が出てしまうため、触ったときの感触により物の性質を学ぶことができません。行為を通して学ぶ段階の子どもは、タッチして変化を巻き起こす面白さだけを学んで、その先に興味がつながらないこともあります。●触れて動かす体験が何より大事触覚や運動を中心としたフィードバックのある3次元の教材で活動することの重要性は、発達の初期段階にいるお子さんほど高まります。「触って動かしてわかる」ことから人間の学習が始まるからです。一方、文字や数がわかるようになったお子さんであっても、画面の中の成功体験が、現実とすぐに結びつくわけではありません。現実世界は、触覚や嗅覚や味覚など近位感覚を含む多種多様な感覚で感じる世界だからです。46
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