スクラボ7_特別支援版
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4自閉スペクトラム症がある図1ASDを伴う人は一般に視覚情報を受け入れやすいため、構造化された環境で、言葉よりも絵カード・写真カードで示すことにより指示や予定が理解しやすいと考えられています。ASDのお子さんを想定した視覚に訴える教材教具は数多く開発されていますが、それらは、ASDの合併の有無にかかわらず、映像的表象段階にいるお子さんにも適したものばかりです。まだ文字の学習は嫌なのかなと思っていたところ、休憩時間には、漫画の本の吹き出しの漢字まじりの文字をすらすらと読んでいたので驚きました。保護者による読み聞かせで暗記しているのかもしれないと思い、吹き出しが書かれた別のワークシートを見せると、初めてにもかかわらず、こちらもすらすらと読みました。 考えられる要因は、まとまりとして把握しやすい空間の大きさが、漫画本やワークシートの吹き出しのサイズだったということです。吹き出しで囲まれた文字は小さな空間にまとまっており、全体像が目に入ります。子どもは断片的にいくつかの文字を読みつつ全体を捉えて、絵を手がかりに読んだと思われます。一方、1つ1つの文字が大きくバラバラに提示された教材は、大きすぎて子どもの目には意味のあるまとまりとして映らなかった可能性があります。また、切片パズルの例と同じく枠に囚われてしまい、文字の順番や向きの違いに気づかなかったのかもしれません。このように、知的障害が目立たなくても注視や追視が困難な子どもは一般に、幼児期後期から小学校低学年を想定した、大人が見やすい、扱いやすいと考える大きさ(たとえば図1:一辺が2.5cmの文字キューブなど)が苦手なことがあります。より細かい部分に視線が向かう様子は、日常行動を見れば歴然としているのですが、大人はなかなか気がつかないのです。吹き出しの文字はスラスラ読めるキューブの文字教材●視覚支援も認知発達に応じて調節する自閉スペクトラム症(ASD)に関しては、社会的コミュニケーションや対人相互反応の持続的な障害と、興味や活動の狭さと繰り返しの行動(いわゆるこだわり)が比較的低年齢で現れることが診断基準となっています。しかし、他の精神疾患の合併も多く、知的発達の程度においては幅広い対象が含まれ、それらの状態によって状態像も学習内容も変わります。したがって、ASDの障害特性に応じた支援として知られる「視覚支援」においても、認知発達や合併症に応じた細かい調整が欠かせません。ケース3大きな文字での学習は拒むが、漫画本の吹き出しに収まった文字は読む子ども文字を読むようになったという5歳お子さんに対し、名前の文字の順番が学習できるよう、2.5cm×2.5cm×2.5cmの文字キューブ(立方体。図1)を用意しました。平面の板よりは操作しやすく、指でつまむときに対象をよく見ると考えたからです。本人の名前の3文字をバラバラに提示して、枠に入れるように促しました。しかし、文字の順に関心を示さないどころか上下左右の向きが違っていても気にせず、全て枠に入れたら興味を失ってしまいました。44お子さんについて

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